信濃の疏水
佐久地域
ありがたきかな此の水 蓼科の水(たてしなのみず)
このページの写真は、蓼科山麓を水源とし、江戸時代に開削されたかんがい施設「五郎兵衛用水」「塩沢堰」「八重原堰」「宇山堰」の四つの堰の源泉です。これら蓼科山麓の湧水は、現在では県営御牧原地区農業水利改良事業(昭和34~46年)の水源として、長野県が水利権を取得している「荒井戸頭首工」及び「浅科堰」への注水の役割を担っています。
県営御牧原地区農業水利改良事業は、補給水源として女神湖(赤沼ため池:有効貯水量26万㎥)や頭首工を築造し、旧四堰を水利統合した事業です。整備した立科一号~三号幹線(24㎞)により立科町と東御市八重原へ、浅科幹線(7.7㎞)により佐久市浅科へ配水するとともに、水利統合によって生み出された水を、御牧原一号、二号幹線(20.5㎞)により、当時用水が乏しく天水頼みであった小諸市御牧原と御牧ヶ原台地に新たに導水したもので、現在も1537haの農地を潤しています。
本稿のタイトル「ありがたきかな此の水」は、平成5年1月に発刊された、北佐久郡川西土地改良区連合の「連合三十周年記念誌」の表題の言葉です。当時の土地改良区連合理事長の六川長三郎氏の序文では「三十周年を期にこの事業の成り立ちと経過、又、これにまつわる処々の契約等、出来るだけの資料を整理して置き、将来の指針ともなればとの思いから纏めさせたものであります。」と述べており、初代土地改良区連合理事長の小山邦太郎氏の「竣工によせて」では「しかもこの思いにむくゆるに如何なる態度でこたえたらよいか深く心すべきであります。嗚呼尊きかなこの水」とあります。
本水利「ありがたきかな此の水」を良好な状態で後世に引き継ぐことは、長野県農業土木職員にとって、「サクラダ・ファミリヤ」と同様の重要な責務であります。
平成30年、北佐久郡川西土地改良区連合では、平成31年度の国庫補助事業の採択に向け、県営立科幹線地区土地改良事業計画を策定しています。老朽化した施設の長寿命化、用水不足を補う水源の確保、施設管理の省力化、人家・公共施設等の防災減災対策、歴史的農業水利施設の維持・保全を整備方針とした立科一号~三号幹線及び御牧原一号幹線に係る整備は、これからの一大プロジェクトとなります。
このようにして、昭和時代に築造された本かんがい施設が、次代に受け継がれ、将来には、世界かんがい施設遺産に登録されることを祈念しています。
農業水利施設を整備し、維持保全していくためには、受益に関わる農業者とともに、市町村、土地改良区、地域住民の皆さんが一丸となって事業を進めていかなければなりません。先人たちが現代に残した「ありがたきかな此の水」の想いが、長野県下の農業土木技術者や地域の関係者によって守り受け継がれ、「信濃の疏水」がこれからも長野県農業を支え続けていくものと確信しています。
2018年12月掲載
・施設の管理者
北佐久郡川西土地改良区連合
(小諸市御牧原土地改良区、立科土地改良区、五郎兵衛用水土地改良区、東御市八重原土地改良区、御牧ヶ原台地土地改良区の5土地改良区で組織)
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