信濃の疏水
大北地域
潤いと安らぎに満ちた 越荒沢堰(こしあらさわせぎ)
北アルプス鹿島槍ヶ岳を源とする鹿島川。鎌倉時代から南北朝時代にかけ、氾濫河川を鎮め、現在の大町市街地の生活用水確保のため開削・改修されたのが「越荒沢堰」である。その後、流域の新田開発が進むとともに人口が増え、灌漑用水としての比率が高まり、戦後の開拓、幹線用水路の新設が行われるまで400haの農地を潤していた。現在では、昭和26年頃からの総合開発事業により、他の幹線用水路と受益を分け合い、鹿島川の左岸210haの水田を灌漑するようになった。
この地域は、鹿島川によって形成された扇状地で、風化花崗岩と転石混じりの砂礫土壌ゆえ漏水が著しく、下流域での用水不足に悩まされていたが、平成10年度からの県営農業用水再編対策事業により整備され、用水の安定供給が可能となった。
用水は清冽でイワナやカジカなど清流を好む魚も多く棲息し、周辺にはヒメギフチョウが舞う豊かな自然環境を創出している。また、下流域の市街地では、農業用水のみならず防火用水、生活用水、消流雪用水、景観保全としても重要な役割を果しており、住民に潤いと安らぎに満ちた快適な生活環境の場を提供している。
「水土里ネットおおまち地域用水対策協議会」により、地域の子供たちを対象とした自然観察会の開催や、農業者以外の住民も参加して行われる草刈り、ゴミ拾いなど地域用水機能を維持・増進するための活動が展開されており、人々の心に、大切な水資源を守り、育む志がより一層広がっていくことが期待されている。
厳しい冬を迎えた北アルプスの麓にも、やがて豊潤な水をたたえて春の恵みが訪れる。
2009年1月掲載
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