信濃の疏水
諏訪地域
坂本養川が考案した落差工 乙女滝(おとめだき)
蓼科高原の横谷峡に足を運ぶと、断崖を流れ落ちる滝壷のない滝を見ることができます。茅野市ふるさと景観百選にも認定されている「乙女滝」です。観光で訪れる人のほとんどが、自然の滝と思っているようですが、実は、茅野市玉川の約300haの水田を潤している大河原堰の一部で、人工の滝なのです。
大河原堰は、江戸時代後期、比較的水量が多い茅野市北部の河川の余水を、複数の河川を結び、順々に南部の水不足地帯へ送るため、坂本養川が考案した用水路で、「繰越堰」と呼ばれています。この堰の完成により、玉川の穴山地区では、石高が4割増加したと言われています。
乙女滝は、渓谷が深い渋川を横断させるために築いたもので、河岸の急峻な崖を一気に落下させ、川に落ちる前に集めた水を水路橋(築造当時は、木製の掛樋)で渡し、渋川からの補給水と併せて下流へ流しています。
これは、岩盤を巧みに加工した、いわゆる落差工で、滝の下では、自然石を使って減勢させる工夫がされており、このため、滝壺のない滝となっています。
現在も築造当時の姿を残す自然の地形を利用した用水路は、農業用水を確保するため、豊かな知恵と高い技術を駆使した先人の苦労とともに、「かんがい施設遺産」として、末永く後世に伝えたいものの一つです。
2016年4月掲載
◦施設の管理者 茅野市大河原堰土地改良区
◦坂本養川 田沢村(現茅野市宮川)の名主で、諏訪全域の水利調査に基づき、高島藩に献策し、15年で15の堰の開削を指導した。