信濃の疏水
長野地域
晩秋の静寂 鏡池(かがみいけ)
古代から霊峰として崇められ、日本神話にも名高い戸隠山、この山の麓に「戸隠の大正池」とも称される「鏡池」が存在する。
この鏡池は、標高が1200mの高地に開墾された水田を潤す目的で、昭和44年から49年にかけて県営事業により築造されたものである。戸隠連峰を源とする清冽な湧水を稲作に利用するために、いったん貯水し水を温める機能を持つ農業用の温水ため池として誕生した。
戦前、戸隠村(現長野市)の宝光社地区や中社地区では、標高が高く稲作を行うことが難しかった。村では戦後、食糧増産のためにこの高地に大規模な開田を実施し、併せて鏡池や小鳥ヶ池などの温水ため池を築造した。これにより、保温折衷苗代などの水稲栽培技術の向上と相俟って、この地域での稲作を可能にした。
約70haの水田を灌漑するこれらのため池は、現在では地域のシンボルとして観光面でも大きな役割を果たしている。特に、この鏡池は、その名前にふさわしく、戸隠山の四季折々の表情を鏡のように水面に映し出しており、その美しい様を一目見ようと数多くの観光客が訪れている。
今、晩秋の静寂の中で、鏡池は、これから迎えようとする長く厳しい冬に備え、静かに美しく、そして厳かに佇んでいる。
2008年11月掲載
◦「鏡池」は通称であり、ため池台帳での正式名称は「西原ため池」である。
◦ 保温折衷苗代 寒冷地の育苗や早植えのために行われる苗代で、苗代面を油紙やビニールなどで覆い、苗が3㎝程度成長してからそれをとり、その後は、水を張って育苗するもの。
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