信濃の疏水
佐久地域
いにしえの慣わしを今に伝える 鷽ノ口円形分水(うそのくちえんけいぶんすい)
佐久穂町にある鷽ノ口円形分水は、激しい水争いの歴史とそこから生まれた珍しい水利慣行を背景に持つ※円形分水工です。
江戸時代に、大岳川から取水し、旧中畑村他5ヵ村と旧上村の水田を潤す用水が開削されました。当時から、水源のある旧上村と取水口のある旧中畑村では、水争いが絶えず持ち上がっていました。そこで「藤蔓(ふじつる)分水」と呼ばれる水利慣行が生まれました。
「藤蔓分水」とは、毎年八十八夜(現在の5月初旬ごろ)に、厳重に保管された長短2本の藤蔓の封印を解き、各々の長さの尺棒を作り、用水路途中にある滝壺に、土のうを用いて、尺棒の長さに合わせた水口を作り用水を分配したもので、藤蔓を用いたことから、このように呼ばれていました。この藤蔓の長さを測ることは固く禁じられており、尺棒は即時焼却されていました。この「藤蔓分水」は、昭和28年に鷽ノ口円形分水が完成するまで長く続けられていました。
鷽ノ口円形分水は、直径6m、深さ1.2mの鉄筋コンクリート造りで、水田の面積に応じて決められた側壁の穴の数により、上村、佐口、小山という3用水に水を分けています。古い慣わしを今に伝えながら、鷽ノ口円形分水は、今日も粛々と用水を分け地域の農業を支えています。
2015年11月掲載
◦施設の管理者 佐久穂町
※円形分水工 一般的に円筒分水工と呼ばれ、水路の流水を逆サイホンを用いて円筒形水槽の中央部に吹上げ分水するもので、数多く分水することと分水比が安定していることが特徴。また、その公平性が誰にもわかりやすいことから、水争いの解消に役立ったといわれている。
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